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東洋経済オンライン 2016年5月31日
 
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私たちはそろそろアベノミクスを総括したうえで、その問題点を修正するための経済政策を考えるべき時期に来ていると思われます。私はこれまで3年以上、この連載コラムやブログ、書籍などを通して、「大規模な金融緩和を主軸にした経済政策は間違いなく失敗するだろう」と、できるだけ論理的に申し上げてきたつもりです。その主な理由としては、以下の4点にまとめることができるでしょう。

(1)円安により企業収益が増えたとしても、実質賃金が下がるため国内の消費は冷え込んでしまう。


(2)大企業と中小零細企業、大都市圏と地方といった具合に、格差拡大が重層的に進んでしまう。


(3)米国を除いて世界経済が芳しくない見通しにあるので、円安だけでは輸出は思うように増えない。


(4)労働分配率の見地から判断すると、トリクルダウンなどという現象は起きるはずがない。



1.GDP成長率、実質賃金の低下


(略)

正直申し上げて、民主党政権時代の経済政策もひどかったのですが、それでもGDP成長率は2010年~2012年の3年間平均で1.7%のプラスで推移していました。これに対して、GDPを最重要指標としていた安倍政権下では、2013年~2015年の3年間平均でわずか0.6%しか成長していません。消費増税の駆け込み消費を除いたら、3年間平均でマイナス成長に陥ってしまうほど悪かったのです。

さらに、実質賃金の推移を振り返ると、民主党政権下の2010年が1.3%増、2011年が0.1%増、2012年が0.9%減となり、3年間の累計では0.5%増となっています。これに対して、安倍政権下の2013年が0.9%減、2014年が2.8%減、2015年が0.9%減となり、3年間の累計では4.6%も減少してしまっているのです。要するに、2012年~2015年の実質賃金の下落率は、リーマン・ショックの前後の期間を凌駕していたというわけです。

(略)



アベノミクスの下での格差の広がり


すでに2013年後半の段階では、大企業に勤める人々は「円安により景気は少しずつ良くなっている」と前向きな意見が多かったのに対して、中小零細企業に勤める人々は「まったく景気は良くなっていない」とあきらめてしまっていました

それと併行するように2013年以降、大都市圏と地方の労働者のあいだでは、実質賃金に大きな開きが生じてしまいました。大都市圏の多くでは実質賃金がプラスになったのに対して、地方の大半では実質賃金が大幅に落ち込み、県単位では優に5%超の下落をしているところが珍しくなかったのです。まさに、大企業と中小零細企業、大都市圏と地方といったように、格差拡大が重層的に進んでしまっているというわけです。

なお、実質賃金の調査について留意すべきは、従業員5人未満の事業所は調査の対象となっていないということです。端的にいうと、最も経済的な苦境にある零細企業の実態が、実質賃金の調査には反映されていないのです。実のところ、経済統計には最も経済的に弱い層の調査が反映されていないという問題があります。その意味では、実質賃金にしても平均給与所得にしても、数字が示しているよりも実態は明らかに悪いと考えるのが妥当であると思われます。



輸出は増えない

日本企業が海外での収益力を飛躍的に高めることができたのは、過去の円安の局面とは異なり、海外での販売価格の引き下げを抑えるようになったからだと断言できるでしょう。ただでさえ、世界経済は2005年~2007年の高成長の時期と比べると、2013年の時点で欧州や新興国を中心に停滞気味であったので、よりいっそう輸出数量が増えない状況をつくりだすこととなったのです。


トリクルダウンは幻想


最後に(4)の「トリクルダウンが起きない理由」についてです。アベノミクスが目指したトリクルダウンの理論では、円安で収益が上がる大企業が賃上げや設備投資に動くことで、中小零細企業や地方にも利益がしたたり落ちてくるはずでした。しかしながら、この理論はあまりにも経済の本質を逸脱したひどいものでした。中小零細企業ではすでに労働分配率が非常に高く、最初から賃金を引き上げるのは困難であったからです。

(略)

経済の本質からすれば、「物価が上がることによって、景気が良くなったり、生活が豊かになったりする」のではありません。「経済が成長する結果として、物価が上がる」というものでなければならないのです。経済学の世界では、「鶏が先か、卵が先か」の議論が成り立ってしまうことがありますが、実際の経済は決してそのようには動いていかないものです。経済にとって本当に重要なのは、「どちらが先になるのか」ということなのです。

(略)

私はアベノミクスが始まって以来、その理論的支柱であるクルーグマン氏に対する批判を展開してきましたが、そのクルーグマン氏はすでに自説の誤りを認めるようになっています。昨年の後半には「日銀の金融政策は失敗するかもしれない」と発言を修正したのに加え、今年に入ってからは「金融政策ではほとんど効果が認められない」と自説を否定するような発言にまで踏み込んでいます。詰まるところ、日本における経済実験は失敗したのだと判断しているのです。

クルーグマン氏は自分の誤りを認め、「金融政策ではほとんど効果が認められない」と襟を正しましたが、クルーグマン氏の持論を最大の根拠にしていたリフレ派の学者たちは未だに失敗を認めずに、アベノミクスの軌道修正をできないままでいます。さらには、クルーグマン氏に梯子を外されてしまっているのに、そのことに対してはダンマリを決め込んでいます。

(略)



・ポイントまとめ


・アベノミクスでのGDP成長率や実質賃金上昇は、最悪と言われた民主党時代以下

・アベノミクスは大企業の利益は上がっても実質賃金は上がらない

・アベノミクスは都市と地方、大企業と中小企業の格差を拡大させた

・安倍政権は「生活が良くなると物価が上昇する」ところを「物価が上昇すると生活が良くなる」かのように原因と結果を取り違え、生活向上より物価上昇の方向に動いた

・アベノミクス最大の売りであるトリクルダウンは、その理論を提唱したクルーグマン本人が誤りを認めているにもかかわらず、安倍政権はそれにしがみ続けている。


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