言葉遊びをするのは政治家の常だが、安倍晋三や稲田朋美のこの手の言葉遊びの醜悪さは他に類を見ないと言ってもよいだろう。


昨年あの民主主義国家とは思えない強行採決を行った安保法案の実績作りのため、安倍晋三は南スーダンに自衛隊を派遣しようとしているが、「駆け付け警護」により自衛隊員の命が危険にさらされる恐れがあることを、この卑怯者は決して認めようとしない。


7月に南スーダンのジュバで、政府軍と反政府側の「衝突」により、市民数百人と中国PKO隊員が死亡する事件があった。これを「『戦闘行為』ではないか」「内戦状態の場所なのではないか」と野党に指摘され、安倍と稲田はこんな頓珍漢な答弁をした。

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 自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に従事する南スーダン・ジュバで7月に起きた大規模な戦闘について、安倍晋三首相は11日の参院予算委員会で、「『戦闘行為』ではなかった」という認識を示した。民進党の大野元裕氏への答弁。

 ジュバでは7月に大規模な戦闘が発生し、市民数百人や中国のPKO隊員が死亡した。首相答弁に先立ち、稲田朋美防衛相は「法的な意味における戦闘行為ではなく、衝突だ」「戦闘行為とは、国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷しまたはモノを破壊する行為だ。こういった意味における戦闘行為ではないと思う」と述べた。

 「戦闘ではなかったのか」と再三問うた大野氏に対して、首相は「武器をつかって殺傷、あるいはモノを破壊する行為はあった。大野さんの解釈として『戦闘』で捉えられるだろうと思うが、我々はいわば勢力と勢力がぶつかったという表現を使っている」と説明した。

朝日新聞2016年10月11日

なんと、政府軍と反政府勢力とが「武器を使って殺傷、あるいはモノを破壊する行為」があったと認めたにもかかわらず、「戦闘行為」ではないと答弁したのである。


稲田は「法的な意味における戦闘行為ではなく、衝突だ」などと言っているが、そもそも法的に「戦闘」と「衝突」の区別などないのだから、「法的な意味における戦闘行為ではない」という稲田の答弁は根本的に意味をなさない。


さらに、稲田は「戦闘行為とは、国際的な武力紛争の一環として行われる」と言っているが、稲田の答弁に従えば、内戦は戦闘行為ではないことになってしまう。まったくもって意味不明であり、詭弁もいいところだ。


現在のPKO協力法では、自衛隊のPKO参加は「紛争当事者間の停戦合意が成立」していることが条件である。ジュバでの戦闘を「戦闘」と認めてしまうと、南スーダンは「内戦状態」ということになり、自衛隊を派遣できなくなるので、「戦闘ではなく衝突だ」という詭弁を用いたに過ぎない。


安倍晋三はこれまでも散々詭弁を重ねてきたが、この男は嘘をつくことに一切の抵抗がないのだろう。『日刊ゲンダイ』は、元外交官の天木氏の言葉を引用し、こう述べている。


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南スーダンの現状はどう考えても内戦状態で、PKO原則と整合性がつかない。そもそも、安保法改正は日米関係を中心にした話だったのに、なぜ南スーダンにこだわるのか。米国に言われて断れないというなら、まだ理解できますが、日米関係と南スーダンは関係ない。国連から強く要請されたわけでもない。まったくつじつまが合いません」(元外交官の天木直人氏)

 04年のイラク戦争時に「自衛隊の行く所が非戦闘地域」と言ってのけた小泉元首相の開き直りもヒドかったが、安倍首相の言葉遊びは、それ以上に悪辣だ。

 もし死者が出たらどうするのか。「衝突死」とでも言うつもりか。

 過去には「事変であって戦争ではない」と強弁し、「敗退」を「転進」と言いくるめた権力者が日本を破滅に導いた。所信表明で自衛隊に送った安倍首相の拍手が薄ら寒く思えてくる。

日刊ゲンダイ2016年10月14日

稲田はわずか半日にも満たない現地視察で「情勢は安定している」と判断し、国会でもそう答弁している。そして、安保法案で「駆け付け警護」の任務が付与されても、「リスクは高まらない」と述べている。


所謂「保守派」と呼ばれる人たちは、自衛隊の海外派遣や安保法案を認めない人たちを「お花畑」と揶揄する。しかし、戦闘が行われても戦闘ではないと言い、危険な場所も「自衛隊が行く場所は安全だ」と開き直り、駆け付け警護が任務に加わっても「リスクは高まらない」と言う自民党の戦争大好きっ子ちゃんたちの方が、何百倍も脳内お花畑である。


彼らの脳内では、南スーダンは安全だし、自衛隊は攻撃されないし、駆け付け警護をしても安全で、みんなから「自衛隊ありがとう!」「日本バンザーイ」と歓迎されるとでも思っているのだろう。


無謀な行為は、リスクをリスクとして認めない脳内お花畑の政治家によって行われる。自分たちの政治的実績のために、リスクをリスクとして認めることもできない愚かな政治家によって、この国は70年以上続いた平和国家ブランドを捨て、アメリカやイギリスやフランスなどと同じく、「世界に軍隊を送る国」として認識されようとしている。安倍晋三は、日本の国民である自衛隊員の命よりも、「安保法案の行使」という自分の政治的実績の方を取ったのだ。国のリーダーとして、これほどまでに最低最悪醜悪なやつは、戦後いまだかつていなかっただろう。